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10/26新聞報道

重篤者に「未承認」のハードル ドラッグ・ラグ


「小さな白いカプセルを手にして全身が震えた」。佐賀市に住む高藤優美さん(37)は、今月19日の感動をそう表現した。
手にしたのは、待ちに待った治療薬「ミグルスタット」。「日本では使えない」と言われた続けた薬だった。
高藤さんの長女、吾子(あこ)ちゃん(5)は、日本に20人ほどしか患者が確認されていない希少疾患「ニーマン・ピック病C型」と闘っている。
細胞内の脂質を輸送するタンパク質が欠損し、細胞内にコレステロールや糖脂質が蓄積する難病。進行すると脳や神経が破壊され、やがて寝たきりになる。
吾子ちゃんは、生後3カ月で、ニーマン・ピック病C型と診断された。すくすくと育っていたが3歳のときに症状が悪化。昨春には歩くことすらできなくなった。
すがる先がないわけではなかった。欧州では治療薬「ミグルスタット」が承認されている。
父の恒泰さん(40)は個人輸入を考えた。だが聞かされた値段は「年間500万円」。経済的な壁の前に、万策尽きてしまった。
海外では標準的な治療に使われている医薬品が日本で使えないことがある。その格差は「ドラッグ・ラグ」と呼ばれている。
医薬品の承認には安全性や有効性を確認するための治験(臨床試験)が欠かせない。日本で承認されるには、原則、日本での治験が必要とされる。
治験では、数千人規模の患者からデータが集められる。だが、安全性を重視したこの手続きが、吾子ちゃんのような「希少疾病」患者には、ハードルとなってしまう。患者数が少ないために、承認に必要なデータを得るための時間がかかるからだ。
まして、製薬会社にとって治験は費用がかかる作業。採算を考え、日本での承認取得に二の足を踏むケースは多い。
吾子ちゃんの病状は深刻なレベルまで進んでいた。ところが今年5月、希望の光が差し込んだ。
ドラッグ・ラグの解消を目指す厚生労働省の検討会が、ミグルスタットの医療上の必要性を認め、製薬会社に承認申請の準備に入るよう要請したのだ。製薬会社にとって、国の要請は、事実上の強制といえるほどの力がある。
だが、膨らむ期待をよそに吾子ちゃんの容体は急激に悪化。食べ物が飲み込めなくなり、7月には栄養や水分を補給するためのカテーテルを入れる穴を胃に開ける手術を受けた。
一刻も早い承認を−。両親は、国会議事堂前でチラシをまこうかとまで思い詰めた。主治医も、一刻も早い投薬が実現するよう、働きかけてくれた。
必死の願いは通じた。10月から始まった日本での治験に、吾子ちゃんが参加できることになったのだ。
「薬がなければ死を待つだけだった」。恒泰さんはミグルスタットに望みを託す。
主治医で佐賀大医学部小児科学の松尾宗明准教授は「未承認薬を使うと制度上、吾子ちゃんに施されている他の治療も保険適用外になる混合診療の壁にあたってしまう。一刻を争う患者については、現在の国の制度を変えることが必要だ」と訴える。
欧米には、他の治療法が存在しない重篤な患者の場合、条件付きで未承認薬の使用を認める「コンパッショネート・ユース(CU)」という制度がある。コンパッショネートは英語で「思いやりのある」という意味だ。
日本でもCU制度導入に向けた議論が近く始まる予定になっている。
だが、未承認薬には副作用リスクもあることを忘れてはいけない。海外のCU制度に詳しい東大大学院薬学系研究科・医薬政策学の寺岡章雄さんは「現在の承認制度を形骸化(けいがいか)させないことを前提に、患者が受ける危険性を少なく、利益を多くするよう最大限に配慮する必要がある」と指摘。患者が求める未承認薬の「早期提供」と「安全管理」という2つのバランス保持が大切と強調している。
(産経新聞より)

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