ニーマン・ピックC型の治療法
日本での治療法
DMSO(dimethylsulfoxide/ジメチルスルホキシド)というニーマン・ピックC型に対する治療法が、昭和60年より桜川博士らの研究により開発され、一部の患者に対し試みられてきました。DMSOとは、ニーマン・ピック病で異常のある酵素であるスフィンゴミエリナーゼを誘導する作用があり、体内に蓄積したコレステロールを減らす効果があるといわれています。一部の患者で肝脾腫が著明に縮小する効果や、痙攣の軽減、脳波所見の改善を認めた事が報告されていますが、神経症状の進行には無効です。
骨髄移植や肝移植なども、一部の患者に対して試みられていますが、いずれも脂質蓄積の減少のみで、神経症状の進行をくい止める事は出来ません。最近の研究では、食餌療法は効果がないとされています。(コレステロール蓄積そのものが問題なのではなく、代謝されて生成されるべき物質の欠乏が問題)文頭でも述べましたが、現在ニーマン・ピックC型に有効な治療法はありません。これは、一部酵素補充療法や、食餌法などの治療法のある先天性代謝異常症でも同様で、治療法といっても根治するものではなく、対処療法に過ぎません。遺伝子の異常によって起こる先天性代謝異常症に対しての根治治療には、遺伝子治療が臨床的に行われないと難しいといわれています。また遺伝子治療が行われたとしても、患者の機能が回復するというものでもありません。そのためには再生医療も平行して行わなければ、患者は現在の状態のまま一生を過ごす事になります。現在ニーマン・ピックC型については、多方面で研究が行われています。病気の形態からアルツハイマー病の研究者から注目されており、これらの研究にはNPCのモデルマウスが用いられています。発症頻度の高いアルツハイマー病の治療法が確立されれば、ニーマン・ピックC型の治療法および対処療法が見つかる事が期待されます。
一日も早く遺伝子治療や再生医療による根治療法、ニーマン・ピックC型に対しての直接的な治療法が確立される事を、一患者家族として強く願います。
海外での治療法
ミグルスタット(Miglustat)治療薬の経口摂取
アクテリオン社EUで、2009年ニーマン・ピック病C型の神経症状の治療薬として承認されました。Miglustat(ZavescaR)はスフィンゴ糖脂質合成の第一段階の触媒であるグルコシルセラミドシンターゼを可逆的に阻害し、ニーマン・ピックC型で蓄積しているガングリオシドの蓄積を減らします。そして血液脳関門を通過するため、脳のガンクリオシド蓄積による神経障害の治療効果が期待されている薬です。2007年には米・英・豪で治験がなされ、嚥下能力の改善・聴力の安定化・歩行能力低下の遅延が認められました。
本薬剤開発元のActelion社の発表によれば、2009年1月にNPCの神経症状の治療薬として欧州で認可、現在韓国においても認可申請中です。なおゴーシェ病T型に対しては、経口摂取によって症状の進行を遅らせる効果がすでに認められています。
βシクロデキストリンの静脈内投与
βシクロデキストリンは、細胞内のコレステロールの輸送を改善することが期待され、モデル動物の寿命を明らかに延長させることが報告されました。βシクロデキストリンは、薬の吸収を効率的にする補助剤(包接剤)として使われ、安全性が高いことが知られています。
2009年2月テキサス大学南西医療センターのBenny Liuらが、論文3)を発表し、通常90日前後で死亡するNPCマウスに2-hydroxypropyl-β-cyclodextrin (HPBCD)なる環状オリゴ糖を投与したところ、その寿命が著しく延び、120日前後まで生きることを報告しています。この論文では寿命の延びのほか、NPCマウスの多くの組織に蓄積するコレステロール量の速やか減少、肝機能の著しい改善、神経変性の減少も報告されています。HPBCDの投与により、NPCにおける輸送の欠失の改善がみられることは明らかです。
アメリカでは、「人道的使用として」FDAの承認を受け、米国ネバダ州のRenown Regional Medical CenterでNPCの双子にこれを点滴静注する治験が2009年4月から始まっています4)。この治療によりアメリカの子どもは、話せなくなっていた単語や文章の数が増えていると聞いています。またインドの少女に対しても2009年4月より治験が始まっています。米国FDAは2009年3月15日、この治験に対して『コンパッショネートユース(CU: Compassionate Use:人道的使用)』という形で特認しています。