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顧問医師のお話

 現在、当会では全国各地域において、専門医の先生に顧問医師として本ウェブページに紹介させていただけるよう準備を進めております。専門的な情報提供をいただいたり相談ができるようになることを希望しております。
 予定といたしましては、北海道・東北・関東・中部・関西・中四国・九州等のエリアを考え随時アップする予定です。

鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科 大野耕策

「ニーマン・ピック病C型」について

 ニーマン・ピック病C型患者家族の会のホームページ開設おめでとうございます。このホームページを介して、多くの方にニーマン・ピック病C型について知っていただき、ニーマン・ピック病C型の患者さんへのご支援を賜ることができるようになり、またニーマン・ピック病C型について活発な情報交換の場になりますように期待しています。
 ニーマン・ピック病C型はまれな病気です。私どもの地域(山陰地方)の背景人口は135万人です。過去38年間で、ニーマン・ピック病C型の小児型2家系2人、若年型1家系2人の方を診てきました。小児型のお二人はすでになくなっています。38年間で経験したライソゾーム病の患者さんは、ゴーシェ病が3家系3人、異染性白質変性症が2家系2人、クラッベ病が1人、ファブリ病は2家系3人、GM1ガングリオシドーシスは3家系3人、ポンペ病1家系2人、ニーマン・ピック病B型1家系1人、ニーマン・ピック病A型0人、テイ・ザックス病0人です。ニーマン・ピック病C型は、ゴーシェ病やファブリ病の頻度とほぼ同じで、ライソゾーム病の中では多い方だと思います。
ライソゾーム病のほとんどが進行性の神経障害をおこし、ニーマン・ピック病も発病して数年で歩けなくなる重度な難病です。ニーマン・ピック病C型以外のライソゾーム病は、ライソゾームの中の酵素の欠損でおこり、血液の中に欠損している酵素を点滴で入れる酵素補充療法が開発されつつあり治療効果が期待されています。
 一方、ニーマン・ピック病C型は、脂肪を含む成分を運ぶ袋に含まれるNPC1という蛋白質の遺伝子の欠損でおこります。NPC1蛋白質がうまく働かないために、コレステロールやその他の脂肪成分の運搬に異常がおこり、細胞の中にコレステロールやその他の脂肪成分が貯まることで細胞に異常がおこります、このNPC1蛋白質は細胞の中のコレステロールの量と分布を調整するたいへん重要な蛋白質で、ノーベル賞クラスの研究者が研究に参加しており、将来画期的な治療法ができる可能性がありますが、他のライソゾーム病で行われている酵素補充療法はできません。
 現在までに、コレステロールやその他の脂肪成分が貯まる結果おこる細胞レベルの異常を明らかにして、その異常を軽くする治療法の研究が行われてきました。ニーマン・ピック病C型で蓄積する脂肪成分の合成を抑制し、中枢神経症状に有効なミグルスタットが、今年から欧米で承認されて使われています。現在、アメリカでは酸化的ストレスを抑制するサプリメントとして用いられているN-アセチルL-システインが患者さんで有効性かどうかを検討する治験が始まっています。さらに、コレステロールを引き抜くと考えられるシクロデキストリンの静脈内投与が一部の人を対象とした治験が行われています。ライソゾームのカルシウム濃度を上げることで細胞内のコレステロールや脂肪成分を減らすクルクミン(ウコン)の投与やIL-6を抑制することで細菌の毒素による炎症を抑えることなどで、ニーマン・ピック病C型のモデルマウスの寿命を延ばすことがここ2-3年の間に報告され、複数の治療薬の開発の可能性が高まって来ています。
 ミグルスタットは2009年1月に欧米でニーマン・ピック病C型の神経症状に対する初めての治療薬として認可されています。日本ではまだ承認のめどはたっていません。現在、外国で承認された新しい治療法を1日も早く日本でも使えるようにしていくことが当面の課題であり、多くの皆様のご理解とご支援が必要です。また、市販のサプリメントであるN-アセチルL-システイン、ウコンや一部の薬に含まれているシクロデキストリンがニーマン・ピック病C型の患者さんに有効であるかどうか確認して、治療薬として承認してもらえるようにしていく努力も必要です。
 多くのニーマン・ピック病C型の患者さんのご家族は日々のお世話で本当に大変です。
 このホームページを介して一人でも多くの方にニーマン・ピック病C型について知っていただき、ニーマン・ピック病C型患者さんへのご支援がいただけるようになるように願っています。

東京慈恵会医科大学小児科 井田博幸

ニーマンピック病C型患者家族のホームページ開設によせて

 ニーマンピック病は脂質代謝異常症の一つです。これに属する疾患にはゴーシェ病、ファブリ病、クラッベ病、異染性白質変性症、テイサックス病などがあります。これらの疾患ではその蓄積物質・生化学的異常の解明は1970年代に行われ、遺伝子についてはその多くが1990年代に単離・同定されました。ニーマンピック病C型については1984年にコレステロールのエステル化異常が生化学的に同定されました。そして、1997年にようやくNPC1遺伝子が、2000年にNPC2(HE1)遺伝子が本症の病因遺伝子として同定されました。
 ゴーシェ病とファブリ病においては生化学的異常及び遺伝子の同定は酵素補充療法という画期的な治療法の開発に結びつき、現在に至っています。私が大学を卒業したのが1981年であり、研究歴としては27年となります。研究の前半は生化学的異常・遺伝子変異の同定が主な仕事でしたが、1996年に日本でゴーシェ病に対して、酵素療法が導入されてから、どのようにして患者さんに良いQOLをもたらすことができるかという研究に従事してきました。この過程で患者さんの声が医師の研究を後押しすることを学びました。また、新薬の開発には医師の研究も重要ですが、患者さんの協力そして患者さんの“病気を治したい”という情熱が厚生労働省、製薬メーカーを動かすことも経験してきました。この意味で患者同士のネットワークそして患者さんと医師との相互関係の構築が極めて重要だと思います。
 現在、ニーマンピック病C型には根治療法は存在しませんが、ミグルスタットやシクロデキストリンなどの新しい治療法も開発されてきました。このホームページの開設により患者さん同士のネットワークが形成され、多くの医師がニーマンピック病C型の診断・治療に興味をもち、本症の患者さんにより良い医療が構築されることを願っております。

大阪大学医学系研究科小児科 酒井規夫

NPCについて

 ニーマンピック病はライソゾーム病の一つであり、A, B型とC型に分類されています。日本ではC型が最も多く当院では2例の患者さんの診察の経験があります。いずれも乳幼児期発症の神経型で、大変ゆっくりと神経症状が進行するタイプです。診断が必ずしも容易ではありませんが、発達の退行に肝脾腫を伴う時には鑑別すべき疾患の一つです。また難治性の痙攣が特徴となることもあり、当院では特にカタプレキシー(情動発作)といって、笑ったり怒ったりした後に誘発される脱力発作がきっかけで診断したことがあります。診断には骨髄検査によるニーマンピック細胞の同定が特異的で、皮膚生検による培養線維芽細胞のfilipin染色が確定診断となります。また遺伝子診断も可能です。
 ニーマンピックA, B型は日本では少ないですが、今後酵素補充療法が始まると思われます。それに対し、C型は特異的な治療がなく、造血幹細胞移植も有効性は少ないと言われています。そういう面からもC型に対するミグルスタット、βシクロデキストリンなどの承認が待たれるところです。
 また、様々な症状に対する支持療法によっても予後は大きく変わる可能性があり、いかに生きてゆくかと言うことに関するご家族の気持ちと、主治医の先生とのすり合せが大切なことと思います。阪大では最近filipin染色も行なうようになりましたし、関西地区でご相談あればご連絡いただければと思います。

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